車が一台も通らない信号を守れと声高に叫ぶ人は何を守っているのだろう - 接客業はつらいよ! あけすけビッチかんどー日記!
という当初の問題提起について、日仏での歩行者事故を比較する記事が出ていた。
信号を守る日本人の方が2.3倍も歩行者事故が多いのは? - 紙屋研究所
これはこれで、データを出してきた分まだ議論の俎上に載せられるのだが、如何せん比較条件が信号を守る傾向が高い国(日本)と守らない傾向が高い国(フランス)の比較であって、比較条件自体が曖昧なところが残念なところ。結論もうまくデータを生かせていない感じがする(というか結論に向かないデータであったと思う)。
そこで、もうちょっとうまいデータはないかと探してみたところ、次のようなものが見つかった。
平成29年上半期における交通死亡事故の特徴等について(安全・快適な交通の確保に関する統計等|警察庁Webサイト)
警察庁の統計である。
例えば、p.9が分かりやすい。
これはざっくり、違反あり/違反なしの比較になっているが、それでも違反ありは全体の約60%、違反なしに比べれば約1.5倍の死者数である。
もう少し細かい統計データが後のページに掲載されている。(p.48)
ここでは最新のデータ(平成29年6月末時点)のものしかないが*1、それでも高齢者の方が事故率が高く、また高齢者かどうかにかかわらず違反ありの方が死者数が多いことが分かる。
厳密にいえば、違反ありの内訳のうち、当初の話題にしていたのはこの表の中では「信号無視」「横断違反」が該当すると思う。「信号無視」「横断違反」「違反なし」だけ抜き出してみるとこんな感じになる。
厳密な「信号無視」による死者数は意外と少なく、特に高齢者では横断違反による事故が圧倒的に多いことが読み取れる。これは先の記事での高齢者の事故原因に関する考察を説明できている。
これだけ見ると、信号無視と横断違反を足した数よりも、違反なしの方が多いじゃないか、というように見える。
ただ、数字通りに見ればよい、というわけではないだろう。
まず、「違反なし」と言っても、信号を正しく守って横断歩道を渡っているところを、信号無視の自動車が突っ込んできた、というケースだけとは限らない。例えば、歩道を歩いていたところに自動車が突っ込んでくるようなケースも含まれると思われる。しかしそこまでの詳細なデータは示されていないのでこれ以上深掘りすることは不可能なので考えないことにする。
次に、違反をしていて交通事故に遭った状況では、歩行者自身にも過失があるのは明らかである。それに対して違反をしていないのに交通事故に遭うというのは、要するに相手方が過失100%と言える。こういう状況では、違反をしていようがしていなかろうが、被害者になりうる(もらい事故)わけで、つまり信号無視をしている人が交通事故に遭う確率には、「違反なし」の数も暗黙に含める必要があるだろう。「違反なし」の死者数は違反の有無に関わらず交通事故に遭った(かもしれない)人数、「違反あり」の死者数は、それプラス自ら事故に遭うリスクを増した結果であると言えよう。
それを考慮すれば、信号無視をする人が交通事故に遭う確率*2は、信号を守る人が交通事故に遭う確率のおよそ2倍と言える。ルールなので守るのが当然なのは措くとしても、自ら事故に遭う確率を高めたいのでなければ、信号を守るに越したことは無い。
もっとも、当初の提起である、「車がほとんど通らないような場所」では信号を守らなくても事故になることは無いのではないか、ということ自体は、(そんな統計データはどこにもないと思うので)前述のデータを用いても説明するのは無理だろう。それに対しては、ルールはルール、という他ないのかもしれない。
それはそれとして、警察庁の統計データは今回初めて見たのだが、分かりやすいプレゼン資料と統計データが両方示されており、なかなか面白いデータではあった。時間に余裕があれば一度見てみると良いだろう。前半はグラフ中心のプレゼン資料なので非常に分かりやすい。
交通事故死者数のうち、交通ルールを守っている割合が4割近くもあるというのは意外であった。
ルールを守るだけではなく、常に周囲の異常に気を配る必要があるというのを改めて突き付けられた気がする。